私は、受け同士のカップリングを「百合BL」と言う、大学の友人にキレたことがある。
およそ5年前、本当に何気なく、百合の話をしていた時のことだ。
その時に友人が「私も百合好きだよ」と答えたので、詳しく聞いてみると、どうやらBLの話らしい。その時は本当に意味がわからず「え、なんで? 百合って女同士でしょ?百合って言葉使わなくても【受けBL】とかでよくない?」と尋ね返してしまった。
それに対して友人が放った言葉が、私の逆鱗に触れた。
「え、だって百合としか言いようがないもん。本当に百合なんだって」
まず、第一に殺意が芽生えた。
第二に、今すぐこいつを殴りたいと思った。
第三に、こいつを殴っても【百合BL】という概念はなくならない。概念そのものを滅ぼすべきだと憤慨した。
それが今になって、百合界隈でも「百合BL」の存在が議論になっている。
事の発端はこのツイートだ。
【百合BL】
— シャルルコミックス編集部 (@Charles_Comics) 2017年7月6日
7月25日(火)発売!!
\ BL世界に革命を…! /
🌹勃つ姿は百合の花🌹#百合BL アンソロジー
前代未聞・・・BLなのに百合・・・!?
あなたのその目でお確かめください。
ご予約受付中→https://t.co/YVRcZITTm7 pic.twitter.com/tkQHHcUwHy
株式会社メディアソフトから発刊されているBLレーベル・シャルルコミックスによるアンソロジー「百合BL」が発刊したことを知らせるツイートである。
同レーベルは『褐色BL』や『背徳BL』、『オネエ・女装攻めBL』なんていうものまで発刊しており、「○○BL」というタイトルで統一させているのだろう。
BL好き、百合好き、双方がこのツイート及び、それに対する他のツイートに対して反応している。
実際、「Trends24」というツールでTwitterのトレンドワードを調べてみると、上記のような結果が表示される。
これは、2017 年7月7日20:00現在のデータなので、およそ15:00頃から急速に「百合BL」がトレンド入りしたことがわかるだろう。
参考:
私はこの一連の流れを見て、先ほどの大学時代のやり取りを思い出した。
では、なぜ当時の私は、まがりなりにも大学で一番仲がよかった友人に対して殺意を覚えたのだろうか。
それを3つの理由にまとめて説明したい。
1.「百合」の使い方が雑すぎるから
まず、これだ。
受け×受けを「百合」というのはあまりに雑すぎる。正直言ってクソだ。クソネーミングだと思っている。
たぶん、受け同士のカップリングに対して、百合を使った人はこう考えたんだろう。
- 受け=メス=女
- 女同士=百合
- 受け同士=百合
ほんと、クソだ。うんこよりクソだ。
受けは攻めに対して、性行為で女性側に回ることを揶揄して、受けを女にしたんだろう。そこはまぁわからなくもない。全部の殺意が10だとしたら「1殺す」くらいだ。
ただ「性行為で"される側"同士は、"女性"同士と同義だから百合」というのが解せない。
言うまでもなく、百合にはタチネコという概念がある。もしくは見た目で男性的女性的というなら、ボーイッシュ×フェミニンの百合だってある。
百合に登場する女はされたり、したり、強かったり弱かったり、忙しいのだ。
もちろん、ネコネコのカップリングもいるし、フェミニン×フェミニンのカップリングだって百合にはある。
それを、受け×受けだから「百合」とは、百合の世界を狭めすぎじゃないか。
というか正直、てめぇの百合は何色だ???
こちとら、レインボーより多様な女同士の関係性を考えてきたのに、一部の側面だけ切り取って百合BLとか言ってんじゃねぇぞ。
今すぐ編集部の女ども連れてこい。軒並み百合カップルにしてどろっどろの百合エロ書いてやる。
言葉は過ぎるかもしれないが、正直、本当に雑すぎる。
百合界隈がこつこつ広めてきたいろんな百合の姿を2000年代まで後退させる気か。
2.大手市場から小規模市場への食いつぶしだったから
BLは百合より、市場は大きい。これは多くの人が知ってることだろう。
私の感覚では、百合はBLの10分の1程度の市場しかないと思う。
そんなでかい市場が、小規模市場の商品名をパクった別商品を出してみろ。
もとの商品名で売られていた商品が、どんな商品だったか忘れ去られるどころか、商品自体消えかねない。
それは例えるなら年商 8兆2千憶のイオングループが、阪急百貨店・スーパーイズミヤを経営する年商9千億のH2Oリテーリングにかみついたようなものだ。
参考:
イオン | 株主・投資家の皆さまへ | 個人投資家の皆さまへ | イオンの業績
この理論についてはツイートで言及しているので、そちらを参照してほしい。
町のパン屋さんが「えごまパン」というごまクリーム入りのパンを作り、10年かけて地域の人に愛される商品になったとする。それをイオンが「えごまパン」という名前でごまあんこいりのパンを作って売り出したらどう思う?もととなったパンのエッセンスをもとに、全く別商品を、大企業が作るんだよ?
— 3木 (@miki_3k_yh) 2017年7月6日
大企業のえごまパンが定着したら、死んでも死にきれない。イオンころすってなる。だから私は受け同士のBLを百合と呼ぶのに反対してる。
— 3木 (@miki_3k_yh) 2017年7月6日
しかし「もともと百合BL自体はBLの中でもマイナーだった」と指摘する人もいるだろう。
もしかしたら、百合市場よりも狭いかもしれない。
だが、BLというだけで、単語の持つリーチ力はまったく違う。
日本国民すべてが知ってる受けの男の数と、日本国民すべてが知ってる百合作品の女性キャラの数を比べてみろ。
受けの男同士のBLを想像できる人と、百合作品を想像できる人、どっちの数が多いと思ってるんだ?
百合作品を想像できずに、受け同士のBLしか想像できないやつなんてごまんといる。
そんな多数派のなかで「百合=BL百合」と定着してみろ。殺されたって化けて出てやる。
なにより、BL界隈にはあふれる語彙力がある。
なぜそれを生かさず、他のジャンル名を雑に割り当てて満足してるんだよ。
もっと、語彙力を生かせ。「百合」よりずっと的確な言葉が見つかるはずだ。
3.「百合BL」という概念を企業が利用したこと
そうは言っても【百合BL】というジャンルが存在することだけだったら、ここまでの殺意は芽生えなかったかもしれない。
ただ、今回は、企業がその言葉を使ったことにも問題がある。
企業っていうのは、多くの一般人より発信力が高い。
本を出せば全国の書店に並ぶし、Amazonでも売られる。先のシャルルコミックス編集部だってフォロー3に対してフォロワー3000を獲得しているアカウントだ。
そんなアカウントが、他のジャンル名を引っ張ってきて、金儲けする。
こんなことが許されていいのか?
私は、正直もともと百合BLが好きだった人も、今回のことで迷惑を被っていると思う。
自分たちで楽しんできた概念を企業がでかい声で言ったから、こんな風にさらされてるわけだし。
(ただ「百合BL」という言葉を使うこと自体には全く同情しない。殺意を覚える)
そこで、私と友人のケンカを思い出してほしい。
私は、結局そのあとも友人と言い合いをつづけた。
9時過ぎの明治通りを遠回りして渋谷駅に向かうさなか、ずっと互いの意見をぶつけあったものだ。
しかし、これ以上、話を聞いていると私も気が触れそうだし、なにより彼女との友情にひびを入れたくなかったので、私は「わかった」と話を切った。
「わかったから。もう二度と私の前でその言葉は使わないでほしい」
それに対して彼女は不服そうだったけれど、とりあえず矛をおさめて「うん」と言葉を返したのだった。
私は、正直今の百合BL問題には、これしかないと思っている。
お願いだから、その言葉を二度と使わないでくれ。
せめて、百合界隈まで聞こえる声で話さないでくれ。
それが、互いに穏やかな友人でいられる、たった1つの手段じゃないだろうか。